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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2016.04.18

マーライオンの眼差し (15) 増加傾向のM&A

矢野 暁

<シンガポールのM&A倍増>

シンガポールにおけるインアウト及びアウトインのM&A取引総額は、ここ数年増加傾向が顕著であり、2015年には前年の約5百億米ドルから一気に約1千億米ドルへと倍増、件数ベースでも7割増加しました(筆者作成のグラフ参照:出所はコーポレートファイナンス・アドバイザリーファームDuff & Phelps)。

6百件近いディールのうち7割がクロスボーダー取引で、特に目立つセクターはインアウト(アウトバウンド)の取引、すなわちシンガポールにある企業が海外企業を買収する傾向が強まっています。また、事業会社ならびにプライベートエクイティやベンチャーキャピタルなどのファンドによるシンガポール企業への投資は金額ベースでは総額20億ドル程度で横這いですが、件数は6割以上増加しています。

<増加の背景>

2016年も昨年と同様の高い水準を記録するという観測も見聞きします。実際のところ、シンガポールの企業を買収したい、シンガポールの企業と資本提携したい、という(シンガポール側から見るとアウトインの)要望を、私のファームでも日系・非日系外資企業から多く受け取っています。また、ファンドからも投資案件を紹介して欲しいとの依頼を多く受けています。

外国企業によるシンガポール企業買収の関心の高まりには、幾つかの理由があります。

1)シンガポール企業の企業統治のレベルがアジア新興国企業と比べて高いこと、裏を返せば、例えば東南アジアの周辺諸国で色々と地場企業と付き合ってみたけど、やはり企業統治レベルが低く、先進国企業として直接は組み辛いと感じ始めていること。

2)シンガポール企業の多くが、既にリージョナル、またはグローバル展開をしていること、或いはそうした展開への意識が高いこと、そしてそれに乗っかって一緒に展開を図る方が効率的との考えが高まっていること。

3)世界経済の弱まりの影響もあり、全般的にシンガポール企業の価値(バリュエーション)が低下していること。

4)競争が激化する中で、従来よりもマインドが弱気になっている経営者が増えていること。

5)それに関連して、自ら国内外で攻めて業容拡大を図るよりも、外資企業傘下に入って拡大をする方が賢明(或いは「楽」)だろうと考える経営者も出てきていること。

一方、シンガポール企業が外へ出ていきたがるのは、自国市場が極めて限定的なゆえに、今に始まったことではないですが、従来は自前で開拓していく面も多分にありました。しかし、全般的に景気が鈍化または不透明化しつつある昨今のアジア域内ならびにグローバルの市場において、自前での開拓には限界を感じつつあるようです。借入金利の安さも手伝い、ここはM&Aで一気に市場を取りに行く、という選択肢が優勢になりつつあるとも言えます。

それは、シンガポールを拠点とする外資企業も同様で、期待していたほどに成長スピードが上がらないアジア域内事業を加速するために、M&Aという手段を選択する企業が多くなっています。

因みに2015年のシンガポールから海外へのインアウト取引を国別でみると、金額的には米国向けが6割と圧倒的に多く、次に1割の中国。件数では中国向けが14%、次に米国が12%と続いています。当然と言えばそれまでですが、日本向けのM&Aは「その他」に紛れ込んでいる程度です。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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