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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2017.01.10

マーライオンの眼差し (23) 申年から酉年へ

矢野 暁

シンガポールのチャイナタウンに出現した巨大ルースター。天空を見つめる眼差しは、酉年(とりどし)の世界をどのように見ているのか?(筆者撮影)
シンガポールのチャイナタウンに出現した巨大ルースター。天空を見つめる眼差しは、酉年(とりどし)の世界をどのように見ているのか?(筆者撮影)

<引き続き騒がしい?>

「未年から申年へ」(第14回、2016年2月)を書いてから早一年近くが経ち、振り返ってみると、一年前に書いたことは結構当たっていたかなあと自画自賛しつつ、現実の申年(さるどし)は予想を遥かに上回っていたとも痛感しています。特に英国のブレグジッド(EU離脱問題)、そして米国のトランプ勝利(大統領選)は、結果に世界が仰天しただけでなく、前後プロセスも耳を覆いたくなるような騒々しさでした。身近なアジアでも、フィリピンのドゥテルテ大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長など物騒極まりないわけで、加えて欧州・アジアなどでのテロも悪化の一途を辿っています。ちょっとザワザワしているというレベルではなく、世界のあちこちで拡声器を使って怒鳴り散らしているような騒ぎでした。

申年は相場格言で「騒ぐ年」と一年前に書きましたが、実は「申酉(さるとり)騒ぐ」でして、今年も騒々しさが続きそうです。株価や為替は巨大ローラーコースターのような状況になり、それに乗っている人たちは冷や冷やしたり悲鳴を上げたり、なんていうことになりそうな気がします。途中振り落とされないで、せめて終着点に辿り着ければそれで良しといったところでしょうか?

<シンガポールにとり「トリッキー」?>

この騒々しく不安定な世界は、シンガポールにとってはあまりよろしくありません。自由貿易の旗手であり、世界への依存度が高いシンガポールにとり、グローバル化から逆行し始めた内向き志向的な世界は都合が悪いのです。いくらシンガポールが旗を振っても、小島の拡声器から発せられるボイスは世界には響かない。それは、トランプ一人によっていとも簡単に反故にされたTPPが、如実に物語っています。世界のパワーを前にしては、シンガポールは成す術もないという感じです。しかも、(国内政治面で厳しい現実に直面しているとはいえ)シンガポールまでもがベクトルを内向きに変えてしまっては、半世紀にわたり築き上げた存立・成長基盤そのものが揺らいでしまいかねません。

因みにシンガポールの2016年経済成長率は1.8%でした。2015年の2%成長をさらに下回り、2009年以降最低の数字を記録したわけです。エコノミストたちの予想では、2017年の成長率は1~2%程度、なかには1%未満という厳しい見方をしている人もいるようです。油断大敵、しっかりフンドシ締め直して、この難局を乗り越えてほしいものです。

<取りにいく年>

と以上、少々悲観的な見方を綴りましたが、前向き思考の私としては、酉年を旧来の一般的解釈通りポジティブに捉えたいという思いも共存しています(日本人だけの解釈なのでしょうが)。まず「とりどし」は客や運気を「とりこむ」年であり、「商売繁盛」の年です。世界の荒波に上手く乗って、むしろ逆手にとるくらいのつもりでビジネスに励みましょう。そのためには、迅速な情報把握、迅速な読みと判断、そして迅速なアクションが必要です。もたもたしていると、まわりの事業環境はどんどん変化していき、常時取り残された状況に陥るでしょう。

過去の栄華やストックに依存する体質の企業は、「万年置いてけぼり組」になりやすく、いずれ消え去る運命です。これは運命なので、仕方がありません。商売繁盛は神様が保証するものではなく、自ら取りに行った結果としてついてくるものです。波に乗るのであれば、タイミングとスピードが必須です。いやいや、世の中の変化に右往左往するのではなく、じっくりと腰を据えて長期的なビジネスを行うというのであれば、それも一つの判断ですが、実際の経営には長期的枠組の中での機敏な判断・行動が必要と言えます。

<ネクスト・ステージへの飛躍>

もう一点、酉年は「物事が頂点まで極まったような状態」、いわば「完熟状態」の年でもあります。これは終焉を意味するのではなく、次の段階、異なる次元へ脱皮するタイミングに到達したことを意味する、と(少なくとも私は)解釈しています。ですので、会社も個人も、そしてもしかすると国家や世界全体が、新たなパラダイムを求めてディスラプション(破壊的イノベーション)を始める年になるのかもしれません。ニワトリは飛べませんが、何だか羽ばたいていくような光景が目に浮かびます。そうした想像をすると、何だかワクワクしてきます。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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