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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2015.02.09

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.12 『Presentation』

北原 敬之

桟橋からみるアルカトラズ島(サンフランシスコ)

亡くなってから3年経っても高い人気とカリスマ性を維持しているアップル創業者のスティーブ・ジョブス氏、世界を代表するイノベーターであり企業経営者ですが、もう1つ有名なのは、彼のプレゼンテーションの才能です。言葉・ロジック・態度・ボディアクション・画像を駆使した説得力のあるすばらしいプレゼンテーションで、アップルの優れた情報発信力はジョブス氏のプレゼンテーション力に支えられていたと言っても過言ではありません。筆者の経験では、ジョブス氏に限らず、アメリカ人にはプレゼンテーションの上手い人が多いように感じます。プレゼンテーションの苦手な人が多い日本人(そうでない方もいると思いますが、ここでは一般論とご理解ください)から見ると羨ましい限りです。今回のコラムではプレゼンテーションについて考えてみたいと思います。

なぜアメリカ人は日本人よりプレゼンテーションが上手いのでしょうか?1つの理由は、文化の違いです。
「定住型稲作文化村社会」の日本では、長い時間をかけて個人の能力が評価されるため、個人が自分の力量をアピールする必要がないのに対して、「移動型狩猟民族競争社会」のアメリカでは、短期間に自分の能力を周囲に認めさせる必要があるため、個人が力量をアピールするためのプレゼンテーション技術が発達したと考えられます。アメリカでは、小学校1年生の授業からクラス内でプレゼンテーションをさせますし、大学やビジネススクールの授業でも学生がプレゼンテーションする機会が多く用意されていますが、これも、アメリカの厳しい「競争社会文化」の中で生き残っていくための、「自分の主張を他人に理解させる」「自分の能力を他人に示す」技術を身に付けさせる教育であると言えます。

2つめの理由は「英語」です。英語は、主語や肯定・否定が明確で、構造的にも文法的にも「論理的」な説明に適した言語と言えます。また、難しい漢字やひらがな・カタカナ・アルファベットを使い分けなければならない日本語に比べると、アルファベット26文字だけで済み、ビジュアルなプレゼンテーションにも適しています。

アメリカでのビジネスでは「プレゼンテーションをする機会」あるいは「プレゼンテーションを受ける機会」が多いのですが、日本人ビジネスマンが留意しなければならないことが2つあります。

第一は、プレゼンテーション力を高めることです。筆者の経験では、国際会議やビジネス交渉における日本人のプレゼンテーション力は、残念ながらアメリカ人に比べて見劣りしているように感じます。発表内容はすばらしいのに迫力不足のプレゼンテーションによって結果的に説得力に欠ける印象を与えてしまっているケースを多く見てきました。もちろん内容が一番大事ですが、内容が同じレベルなら、プレゼンテーションが上手い方の説得力が高くなることは否定できません。前述した文化の違いや英語力のハンディはありますが、我々日本人ビジネスマンはもっとプレゼンテーションスキルを磨く必要があります。グローバルなビジネスの世界では「言葉が人を動かす力」であることを認識しなければならないと思います。

第二は、プレゼンテーションを受ける場合ですが、「上手すぎるプレゼンテーション」に惑わされないということです。現在では、昔のようなペーパーの資料に基づくプレゼンテーションは少なくなり、パワーポイント等のソフトを使った画像によるプレゼンテーションがほとんどです。図表・グラフ・静止画・動画を上手く使って「見える化」することは発表内容をより理解しやすくするという意味で有効な手法であり、多いに活用すべきですが、「見える化」が行き過ぎると、インパクトの強い凝った画像によって内容の乏しさやデータ不足等の弱みを隠す「見せる化」になってしまいます。また、巧みな言い回しやボディアクションなどで聴衆を惹き付ける「話術」もあります。「上手すぎるプレゼンテーション」とは、この「見せる化」や「話術」のテクニックによって実際の内容よりも「良いと思わせる」プレゼンテーションのことです。日本人ビジネスマンは、「上手すぎるプレゼンテーション」に惑わされることなく、発表内容を的確に理解・評価できる「枝葉に隠された幹と根を見抜く眼力」「本質を見抜く思考力」を養うことが必要です。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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