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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2015.05.07

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.15 『金は出すが口は出さない』

北原 敬之

マイアミビーチ(Miami Beach)はアメリカ合衆国フロリダ州マイアミ・デイド郡にある都市。ビーチリゾートとして有名な観光都市。人口87,925人(2005年)。マイアミ市からビスケーン湾の北端部をはさんで東側にあり、南北に細長い。マイアミ市とは別市であるが橋でつながり、通称マイアミと呼ばれることもある。

アメリカ経済のダイナミズムの象徴の1つが「ベンチャー企業」です。世界のICT産業をリードするアップルもグーグルもアマゾンも、インターネットの普及に伴うICT化の波に乗ってグローバルな大企業に成長しましたが、いずれもアメリカで起業されたベンチャー企業です。アメリカでは毎年多くのベンチャー企業が生まれます。その大半は起業後数年で淘汰されますが、本当に優れた技術力とビジネスモデルを持ち、時代の変化に適応した少数のベンチャー企業が生き残り、急速な成長を遂げており、今やアメリカ経済を牽引する存在と言っても過言ではありません。今回のコラムでは、アメリカのビジネス文化と経済の力強さの象徴と言ってもいい「ベンチャー企業」について考えてみたいと思います。

なぜアメリカでは次々にベンチャー企業が生まれ育つのでしょうか? 1つの理由は文化の違いです。ベンチャー企業家の予備軍と言われているのがトップクラスの理工系大学を卒業したエンジニアですが、日本では、一流大学の理工学部出身者は安定志向(大企業や官庁への就職を望む)が強く、リスクを覚悟して起業しようとする人が極めて少ないのに対して、アメリカでは、在学中からベンチャー企業の起業を考えるフロンティア精神に満ちたエンジニアが多数います。また、ベンチャー企業を起業して失敗した場合、日本では「敗者」のレッテルを張られてしまうのに対して、アメリカでは何度でもチャンスを与えられるため、挑戦しやすいという側面もあります。農耕民族と狩猟民族の文化・精神構造の違いでしょうか?

アメリカでは、ベンチャー企業の起業を資金面でサポートする「ベンチャーキャピタル」が発達しており、投資額も投資件数も日本よりはるかに大きく、産業界全体に「ベンチャー企業を育てよう」という戦略的なコンセンサスが形成されています。また、個人でベンチャー企業に出資する「エンジェル」と呼ばれる投資家もいます。「エンジェル」には、ベンチャー企業を起業した経験を持つ投資家も多く、ベンチャー企業のOBが若い後輩達をサポートする「応援団」のような存在です。日本にも「ベンチャーキャピタル」はありますが、アメリカに比べると低調で、ベンチャー企業を増やす仕組みとしては物足りないように感じます。

もう1つ重要な点は「産学連携」です。日本では、政府の推進策もあって、以前に比べると「産学連携」が拡大してきましたが、まだまだ産業界と学界の距離が遠く、いわゆる「大学発ベンチャー」も少数に止まっています。アメリカでは、日本よりも実践的な産学連携が進んでいて、企業と大学が共同で新たな技術や製品を開発する「コンソーシアム」の仕組みが多くの成果を生み出していますし、新技術を開発した大学の教授や研究者が「大学発ベンチャー」を立ち上げるケースも多数あります。

近年、シリコンバレー地域を中心に、日本の大企業がアメリカのベンチャー企業に出資するケースが増えているようです。「自前主義」になりがちな日本の大企業が優れた技術を持つアメリカのベンチャー企業と連携することは良いことだと思いますが、成功するためには下記の点で発想の転換が必要だと思います。

①長期的・大局的な視点での「目利き」

ベンチャー企業に出資する場合、目先の利益やメリットにとらわれることなく、対象企業の持つ技術力や潜在的な成長力,自社技術との相乗効果,グローバルな技術トレンド,経済・市場の変化などを長期的・大局的な視点から吟味する「目利き力」が必要です。専門的なコンサルタント会社を使うのは有効ですが、コンサルタントに頼りすぎることなく、自らの「目利き力」を磨くことが肝要です。

  

②「金は出すが口は出さない」

ベンチャー企業は活かすも殺すもやり方次第です。日本の大企業は「管理」するのが好きなので、ベンチャー企業に出資した瞬間から「管理」しようとする傾向がありますが、これが問題です。ベンチャー企業の良さは、大企業にはない自由闊達さ,意思決定の速さ,フットワークの良さであるのに、大企業の発想で「管理」しようとしてやたらに会議や報告書を増やすと、ベンチャー企業の良さが失われて、活力が低下してしまいます。

「目標を共有して結果で評価する。プロセスは全部まかせる。」 つまり、「金は出すが口は出さない。」これがベンチャー企業を活かすベストなマネジメントです。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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