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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2016.06.20

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.27 『PMIは異文化マネジメント』

北原 敬之

ロアタン島:カリブ海に浮かぶホンジュラス領の島

日本企業による海外企業のM&A(企業の合併・買収)は年々増加しており、2015年にはじめて買収金額が10兆円を超えました。思い返せば、80年代後半から90年代前半にかけて、第1次M&Aブームが起き、日本企業による海外企業の買収が盛んになりました。特に、当時は、日本企業によるアメリカ企業の買収が多かったように記憶していますが、M&Aに慣れていない日本企業が、適正価格を大幅に上回る高値で買収するケースや、事前調査が不十分で買収後に不良資産や簿外債務が発覚するケース、コンペティターに対抗するため事業戦略が不明確なまま買収を決めてしまうケースなど、経験豊富な欧米企業に比べて日本企業のM&Aの技量はまだ未熟な時代でした。その後、日本企業も企業買収の経験を積み、現在では、M&Aそのもののプロセスについては欧米企業と遜色ないレベルに達していると考えられますが、1つ課題が残っています。それは、買収した後の「PMI」(Post Mergers Integration)です。今回のコラムでは、日本企業の海外企業買収におけるPMIについて考えてみたいと思います。

PMIとは、M&A成立後の統合プロセスのことです。新しい組織体制の下で企図した経営統合によるシナジーを具現化するために、企業価値の向上と長期的成長を支えるマネジメントの仕組みを構築・推進するプロセスの全体を指します。M&Aの成果の度合いは、このPMIの巧拙によって決まると言っても過言ではありません。過去、日本企業がアメリカ企業を買収した実績を見ても、買収後に業績が伸びて買収が成功だったと評価されているケースでは、例外なく、PMIが着実に実行されています。逆に、買収が失敗だったと言われているケースの中には、失敗の原因がPMIにあったと考えられるものが散見されます。

PMIは、それまで別々であった企業を1つに統合していくプロセスです。事業戦略・技術・製品・販売ルート・人事制度・管理システムなどの統合については、統合の対象が目に見える「形式知」であるため、手間はかかりますが、それほど困難なことではないと思われます。しかし、企業文化とか経営理念のような目に見えない「暗黙知」の統合は、統合の対象が「企業に属する人間の頭と心の中にある」だけに、難しいと言わざるを得ません。特に、日本企業によるアメリカ企業の買収のようないわゆる「クロスボーダーM&A」の場合は、異文化環境の中で統合をしていくわけですから、正に「異文化マネジメントの発想と手法」が必要になります。

一般的に、異文化に遭遇した場合の人間の行動として「共存」「同化圧力」「儀礼的無関心」「対立」の4つのパターンがあると言われていますが、異文化マネジメントのあるべき姿は当然「共存」です。日本企業の場合、さすがに「対立」は少ないですが、「上から目線」で相手に対して自分に合わせるよう強制する「同化圧力」や、コンフリクト(軋轢)を避けて表面上だけ相手に合わせてしまう「儀礼的無関心」もあるようです。

買収した企業が自社の「企業文化」「経営理念」を買収された企業に無理矢理押し付ける「同化圧力」は、表面上統合できたように見えるかもしれませんが、本当に心の底から「共感」して受け入れたものでないため、長続きしません。また、逆に、相手に合わせてしまうやり方は、相手の文化を尊重しているつもりかもしれませんが、逃げているだけで、いつまで経っても「統合」できません。あるべき姿は、コンフリクトを恐れず、相手と本音でぶつかり合い、お互いに納得して共感する「共存」です。「企業文化」「経営理念」を統合するということは、言うなれば、「心を統合する」ということですから、時間と手間がかかりますし、異文化の相手を納得させコンセンサスを形成するだけの説得力と異文化理解力・コミュニケーション力が必要です。

日本企業が海外企業を買収した場合、「買収前の旧経営陣を買収後もそのまま残す」例が見受けられます。
「買収によるショックを和らげPMIをスムーズに行うためには、いきなり新経営陣を送り込むより、旧経営陣を残した方がベターだろう」という「日本人的な配慮」と思われますが、そんな単純なものではありません。PMIの最も重要な部分である「企業文化」「経営理念」の統合にとってプラスかマイナスかを冷静に判断し、マイナスの場合は、躊躇なく「旧経営陣を切って新しい経営陣を送り込む」果断な意思決定が必要です。特に、PMIの成否はトップの力量に左右されます。「企業文化と経営理念の統合」を実現できる強力なリーダーシップと異文化コミュニケーション力を持った人物をトップに据えることが必須条件です。
今後、アメリカに限らず、日本企業によるクロスボーダーM&Aは更に増加していくと予想されますが、前述した「異文化マネジメントの発想と手法」が日本企業のPMIの参考になれば幸いです。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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