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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2017.01.04

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.32
『Nemawashi』

北原 敬之

モノ湖(アメリカ合衆国カリフォルニア州)

先日、日本在住のアメリカ人の友人から「Bonenkaiやりませんか?」というメール(彼も日本在住数年で日本の伝統的な風習の1つである忘年会という言葉を覚えたようです)が来て、居酒屋で数人のアメリカ人ビジネスマンと一緒に日本酒を飲みながら雑談する機会がありました。雑談のテーマは政治・経済・経営・スポーツなど多岐にわたりましたが、その中で、ひとりの若いアメリカ人の「日本企業って、どうしてあんなに Nemawashi に時間をかけるのか?」「会議の前に Nemawashi なんかしなくても、会議の場で議論すればいいじゃないか」という発言が気になりました。彼が、日本語の「根回し」の意味をどこまで深く理解して「 Nemawashi 」という言葉を使っているのかはわかりませんが、日本企業に入社して数年経ったアメリカ人が抱くことが多い疑問です。今回のコラムでは、日本のビジネス文化の1つである「根回し」について考えてみたいと思います。

日本では、企業に限らず、いろいろな組織で「根回し」が行われます。メンバー間のコンセンサスと調和を重視する日本の組織では、重要な案件をいきなり公式な場(○○会議や○○委員会など)で議論したり意思決定したりすることはなく、会議などが開かれる前に、その案件の責任者や主管部門が、非公式な形で個別にメンバーに説明する機会を持ち、メンバーの理解と賛同を得られるよう努力します。また、もし案件に反対しそうなメンバーがいれば、反対する理由などそのメンバーの意見をできるだけ聞き出す努力もします。これが、日本の組織で伝統的に行われている「根回し」です。因みに、日本のJETRO(日本貿易振興機構)から発行されている『Communicating with Japanese in Business』では、「根回し」を下記のように説明しています。

 

Nemawashi (Root-binding)
Before Japanese company members "sign of f" on a proposal, whether as a formal ringi document or more informally, consensus building starts with informal, face-to-face discussions. This process of informally making a proposal, getting input, and solidifying support is called nemawashi. The word nemawashi (root-binding) comes from gardening. It is the process of preparing the roots of a plant or tree for transplanting, protecting the roots from damage. Nemawashi in a Japanese organization protects the decision making process from "damage" such as disagreement or lack of commitment.

筆者は、「根回し」の目的は3つあると考えています。

①本番の会議や委員会での激しい議論や意見対立を避けるために、事前に個々のメンバーに説明して予め
了承を得ておくというもので、目的は「コンフリクト(軋轢)を避けることにより組織内の調和を保つこと」
②事前にメンバーに個別に説明することにより情報の共有化を図り、メンバーの案件に対する理解度を揃えて
おくというもので、目的は「コンセンサスを形成しやすい環境を作ること」
③案件の意思決定に関わるメンバーに説明することにより間接的にスタッフ(案件に関連する実務部隊)に情
報提供するというもので、目的は「情報共有化によってスタッフの参画意識とモチベーションを高めること」

よく聞かれるアメリカ人の「根回し」に対する疑問は、「根回しで事前に決まっているなら、会議はセレモニーに過ぎない」「公式の会議の場では議論せず、密室での根回しで決めるのはフェアでない」「根回しに時間をかけているから、意思決定が遅くなる」などが多いようですが、彼らの「根回し」に対する理解は、前述した目的①に基づくものが多く、目的②③の理解は十分でないため、彼らの企業文化の視点から見て疑問に思うのは当然で、カルチャーギャップの1つだと言っても過言ではありません。このギャップを解消する方法は1つだけ、日本人が、アメリカ人との丁寧な異文化コミュニケーションによって、「根回し」の意義や目的をしっかり説明して、そのメリットを深く理解してもらうことです。そうすることが、「密室での決定」や「意思決定が遅い」など、アメリカ人が抱いている「根回し」に対する疑問に応え、前向きな議論に繋がります。
筆者は、日本の伝統的な「根回し」を礼賛するつもりはありませんが、日本企業がグローバル化していく中でも、組織力を高めるマネジメントの手法として「 Nemawashi 」が有効だと信じています。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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