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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2017.01.30

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.33
『Innovation = Invention + Business model』

北原 敬之

アップルストア(NY)

先日発表された「Top 100 グローバル・イノベーター2016」に選出された企業は、アメリカ企業が39社で1位、日本企業は34社で2位でした。「Top 100 グローバル・イノベーター」は、クラリベイトアナリティクス社(旧トムソン・ロイター IP&Science)が毎年1月に世界で最も革新的な企業100社を選出するもので、保有特許に基づく企業の研究開発力・技術力をベースに評価・選出しています。この結果を見る限り、研究開発・技術という視点で見ると、日本企業の競争力はアメリカ企業とほぼ互角であると言えると思いますが、ビジネスという視点で見るとどうでしょうか? ITをはじめとするハイテク分野では、アップル,グーグル,マイクロソフトなど世界をリードしているのはアメリカ企業ばかりで、日本企業はアメリカ企業の後塵を拝しています。日本企業はよく「技術で勝って事業で負ける」などと言われますが、その原因は何か? 筆者の私見ですが、アメリカ企業と日本企業の競争力の差は、「イノベーション」に対する考え方・プロセスの違いに原因があるように感じます。今回のコラムでは「イノベーション」という視点から、アメリカ企業と日本企業を比較したいと思います。

「イノベーション」は、言うまでもなく、経済の成長・企業の競争力の重要な源泉ですが、「イノベーション」の定義について考えてみましょう。よく使われる例で言うと、1765年にワットが世界最初の蒸気機関を作りましたが、これは「インベンション」(発明)です。1814年にスティーブンソンが世界最初の蒸気機関車を作りましたが、これも「インベンション」です。1830年に世界最初の鉄道が開業しましたが、これが「イノベーション」です。つまり、蒸気機関・蒸気機関車という「インベンション」と、線路を敷いて駅を作り蒸気機関車で人や物資を輸送するという鉄道の「ビジネスモデル」がセットになってはじめて「イノベーション」と呼べるということです。
「Innovation = Invention + Business model」あるいは「Innovation = R&D + Business model」ですね。

アメリカ企業は、事業構想の初期段階からR&D(研究開発)とビジネスモデルを一体で考えるため、イノベーションのスピードが速く、技術とビジネスモデルの相乗効果で新たな価値を生み出すことが多いと思います。例えば、アップルの「iPod」 は、超小型携帯音楽プレーヤーとしてのハードウェアの技術と、「iTunes」という楽曲提供サービスというビジネスモデルが一体となったイノベーションでした。

日本企業はどうでしょうか? 日本企業の場合、アメリカ企業に比べて、研究開発とビジネスモデルを一体で考えるという思想が弱いため、イノベーションのスピードと価値創造という点では、残念ながらアメリカ企業に勝てません。その原因はいろいろあります。まず第一に、日本では「イノベーション」を「技術革新」と訳すことが多いですが、これが良くないですね。日本の技術力は確かに世界トップレベルですが、「技術革新=イノベーション」というふうに捉えると、ビジネスモデルや価値創造という視点が弱くなってしまう可能性があります。因みに、中国語では「イノベーション」を「創新」と訳すそうですが、日本の「技術革新」という訳よりも「創新」の方が「イノベーション」の本質に近いように感じます。

第二に、日本企業には伝統的に「技術系」「事務系」という呼称で社員を区分する習慣があって、研究開発は「技術系」の仕事、ビジネスモデルや事業構想は「事務系」の仕事という形で分業していることが多いようですが、これも「研究開発とビジネスモデルを一体で考える」イノベーションの実現を阻んでいる原因の1つと考えられます。「技術系・事務系」という区分は、大学での専攻によって「文系・理系」と区分される入社時点から始まっていて、気付かないうちに、「技術系」と「事務系」の間に「見えない壁」ができているケースもあります。アメリカ企業には、「技術系・事務系」「文系・理系」などという区分は一切ありません。日本企業は、まず、この旧態依然とした区分を撤廃し、専門性・先見性・ビジネスセンス・構想力・企画力等に基づく「適材適所」の人材配置によって、「研究開発とビジネスモデルを一体で考える」風土・組織を作ることが必要でしょう。

第三の原因は、「意思決定」のスピードです。アメリカ企業の場合は、イノベーションに関わる事項はCEO(最高経営責任者)やCTO(最高技術責任者)によってスピーディーに意思決定されることが多いと思いますが、日本企業の場合は、技術部門・企画部門・マーケティング部門等の部門間調整やコンセンサス形成に時間がかかる傾向があります。また、人材・資金などの経営資源の配分についても、社内調整に手間取って、有望なイノベーション分野にスピーディーに重点配分できないケースも見受けられます。日本的経営の特徴であるコンセンサスベースのマネジメントを否定するつもりはありませんが、イノベーションのスピードが企業の競争力を左右する現代においては、意思決定の迅速化という視点が必要です。

イノベーション力の高いアメリカ企業を見ると、例外なく、トップのリーダーシップが強い企業であることに気付きます。日本企業も、「研究開発とビジネスモデルを一体で考える」スピーディーなイノベーションの実現のためには、トップの強いリーダーシップによって、組織全体をイノベーティブに変貌させるマネジメント改革が求められているのではないでしょうか。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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