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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心 日本国内の日常業務から培うグローバルな仕事力

2015.02.23

【グローバル人事管理の眼と心(1)】グローバル化経済社会を生きる「眼」と「心」

定森 幸生

「グローバル化経済」とは、世界中に偏在する財貨 (goods and services) とそれらを創出する人材を含めた経済資源 (economic resources)を、国や地域を越えて最適に配置・活用し、より多くの人たちの物心両面の豊かさを実現しようとする活動を意味します。現在の私たちの生活は、海外との繋がりなしには語ることはできません。就労人口が減少する日本は、経済大国の中でも国民生活の海外依存度が特に高いと言えます。例えば、毎日の食生活で口にする食材や食品のうち、海外の人が関わった産物がどれほど多いかを考えてみるとよく解ります。食生活以外の生活の隅々まで見渡したとき、そこには日本以外の国の人々の創意工夫や努力の成果物を消費しているものの割合の多さに気づくことでしょう。

グローバル化経済社会を生きるうえでは、そのような海外の人々の私たちの日常生活に対する貢献の実情を正当に把握する眼(insight)と、その仕事に携わる海外の人材に対する感謝の気持ちと彼らの使命感や苦労や達成感などを思い遣る心(empathy)を持つことが極めて重要です。同時に、自分もビジネスに携わる者として、例え日本国内を活動の本拠地としている場合でも、直接間接を問わず何らか形で、自分の日常業務が日本以外の国や地域の人たちの経済生活をより豊かにすることに貢献するのだという認識と、それを達成する意欲と使命感を持つことが必要だと思います。「自分は海外で働くわけではないからグローバル化なんて関係ない」という考えは、自分たちの日常生活の向上に貢献する海外の人々の存在を無視し続ける自己中心主義というべきでしょう。

グローバル化経済社会のあるべき姿は、「みんなで助け合い、競い合い、そしてみんなの豊かさを求める」社会です。「豊かさ」とは、経済的なものだけでなく心の豊かさも含みます。様々な分野でプロセスが多岐に亘っても、究極のゴールは「物心両面でみんなが豊かになる」ことです。日本だけ、当社だけ、自分だけではなく、周囲の人々や国々の豊かさも念頭に置く必要があります。「助け合い」が基本であることは当然ですが、より大切なことは「競い合う」姿勢です。相手の優れた能力・識見、高い目標意識・向上心、目標達成への強い情熱などに敬意を払い、自分に足りないところは彼らから謙虚に学ぼうとする意志を持つことです。

「競い合う」目的は、いつでも、どこでも、誰からでも、自分が人に助けや協力を求められた時、それに十分に応えられる実力を磨いておくためです。また、自分が人から助けられ協力してもらった場合には、相手の力量や誠意に感謝すると共に、それを更なる「競い合い」のモチベーションに繋げる切磋琢磨の好循環を作り上げるためです。このプロセスを通じて、「みんなで助け合い、競い合い、そしてみんなの豊かさを求め続ける」社会の形成を目指すのです。これは、グローバル化経済社会に限った環境認識ではありません。日本の経済社会全体においても、あるいは、日本国内の様々な地域経済社会においても本質的に共通するマインドセットです。

ところで、世界に目を向けた場合、私たちが出会う人たちの中には、生い立ちや現在の生活環境、日本とは違った社会規範、政治体制、宗教などの様々な環境要因の影響により、生活信条や価値観(values)や振る舞い(behavioral trait)が、多くの日本人の眼には特異なものに映る場合があります。その現実を受けて、メディアやアカデミズムの中には、特定の国や文化圏に住む人たちを、「アメリカ人は一般的に・・・」「平均的な中国人の行動パターンは・・・」というような固定観念で定義づける傾向がみられ、しかも、それらの固定観念の結論は、「彼らは一般的な日本人とは全く違う」というような対立軸的な分類で整理される傾向が見られます。

しかし、人間の本質的な性質や感性にそれほど顕著な差があるわけではありません。一見異質と思われる事例や上辺だけの現象に惑わされることなく、多様性の中の同質性や本質を的確に見抜く鋭い眼力が、グローバル化社会で生きるうえでは欠かせません。グローバル化した今の世の中では、家庭の事情や職業上の理由、あるいは個人の選択などによって、生まれた国以外に異なる国や文化圏を二つも三つも経験しながら教育を受け、人格形成にとって重要な多感な日々を過ごし、様々な国や文化圏の人たちと一緒に仕事をした経験を持つ人たちと出会う機会が少なくありません。その人のパスポート発給国と、長い年月を暮した国が必ずしも一致しない人が想像以上に多いのがグローバル化社会の現実だという認識が必要なのです。

したがって、「助け合い、競い合い、豊かさを求め合う」相手のことをさまざまな視点で広く深く理解する眼(insight)を培うためには、一緒に仕事をしたり研究したりする相手について、「一般的なアメリカ人は、中国人は、タイ人は云々」という20世紀以前の陳腐化した先入観や偏見(obsolete stereotype and prejudice)に囚われて、不特定多数の人間集団(三人称)として受け止めるアプローチは排除すべきです。それに代わって、目の前にいる相手を、特定個人と位置づけ、「二人称」で向き合い、日々の具体的な活動の下で濃密なコミュニケーションを積み重ねることで、強固な相互の理解・尊敬・信頼の絆を築くことが大切です。多くの人が一目置くような能力や識見を持った人が、仕事仲間や研究仲間の能力・識見、目標意識・向上心などに対して敬意を払う謙虚な姿勢を見せるとき、相手はその人に人間としての品格や包容力を感じ、信じるに値する人間だと認めてくれるようになるものです。一人でも多くの特定個人との「二人称」のコミュニケーションを深め、お互いに人間としての品格と信頼感を感じられる関係を築くことが、グローバル・ビジネスを成功に導くための決定的に重要な条件になります。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE
1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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