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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心 日本国内の日常業務から培うグローバルな仕事力

2015.04.20

【グローバル人事管理の眼と心(3)】 ホスト国市場の好感度を高める「謙虚さ」と「感謝」

定森 幸生

業種の如何を問わず、海外のホスト国で事業活動を行う場合のマインド・セットとして、「よその家の軒下(=海外市場)を借りてビジネス(=市場参入)する機会を与えて頂いている」という「謙虚な洞察」と「感謝の心」がすべてに優先します。進出したばかりで未だ知名度が高くない新興の企業はもちろん、世界的なブランド力や長年の海外事業の実績を誇る企業も、この点に関しては全く同じ立場だと考えるできです。ホスト国の市場ドメインの社会・経済ニーズに、全社をあげて完璧に応えられる自信があったとしても、また、その実力が客観的に実証され高い評価を受けているとしても、やはりホスト国市場は「よその家の軒下」であることに変わりはありません。ホスト国でのビジネスの成否は、その「家人」の厚意と協力に負うところが大きいのです。

ここで言う「市場」には、自社製品の販売やサービスの提供の場としての市場だけでなく、ホスト国のステークホルダーの中でも特に貴重な存在である「人材」の供給場所としての、「労働市場」も当然含まれます。したがって、優秀な人材を確保し活用する際の行動原理は、「雇ってやっている」ではなく、「外国(日本)企業の社業発展のために、ホスト国の優れた労働力を提供して頂いている」という謙虚さと、ホスト国の厚意に対する感謝の心を、事業活動を通じて体現することです。

このような認識のもとでは、熾烈な市場競争を乗り切るための強気の経営をするにしても、ホスト国で許容される商慣行や仕事のペースを尊重し、法律や社会規範を遵守することが鉄則です。法律に関しては、種々の商事法や税法はもちろんですが、人事管理の観点からはホスト国の労働関連法規の正しい理解と遵守が何よりも大切です。業績管理のプロセスを通じて、海外拠点で雇用した人材に厳しい業務課題を要求しその結果を評価するビジネスライクな関係自体は正当化されるにしても、その運用プロセスでは、一外国企業としての自社のために、ホスト国の稀少な人的リソースを活用させてもらっていることへの感謝の念だけは、ひと時も忘れてはなりません。

その意味では、好むと好まざるとに拘らず、人事戦略上ひとつの重要な意思決定が必要になります。それは、ホスト国での事業展開の主要な担い手には、日本本社の精鋭を派遣するだけでなく、ホスト国の労働市場で採用した優れた人材を積極的に登用するということです。これは、もはや「選択肢」の次元にとどまらず、海外事業展開の「前提条件」と言うべきでしょう。なぜなら、ホスト国の市場心理を考えると、自国の優れた人材が重要なポジションで、自国の社会・経済ニーズに応える仕事で活躍する姿が市場の人々に見えないような“外資系(日本)企業”は、その企業の本国サイドの理屈はともかく、そもそも企業として不自然であり、その存立基盤が脆弱に映るからです。

ホスト国で事業活動を行う場合、もうひとつ大切なことは、自社の事業活動に対するホスト国の「市場好感度」を高めることです。企業活動には「永続性 (going concern)の原則」がありますから、消費者や顧客の永続する支持を獲得できる自社の「花形」商品やサービスの供給能力を強化することはもちろん必要です。同時に、たとえ地味で目立たない「脇役的な事業」であっても、愚直にホスト国の市場や産業界のために、あるいは地域社会のニーズを満たす活動に従事することによって、市場および地域社会全体(すなわちステークホルダー)から強い共感と高い信認を獲得する経営判断も重要になります。そのような市場の信認の結果、ホスト国の労働市場の好感度を高めることが可能になり、「今日の脇役事業」を「明日の花形事業」に発展させるための人材の確保も期待できることになります。それを可能にするために、ホスト国での事業拠点の経営方針に中に、「ホスト国の社会要請を尊重しそれに応える」ことを明確に示すことは大変効果的です。外資系企業がホスト国の社会のために尽くす活動は、「市場好感度」に大きな影響を与えるものです。

外資系企業がホスト国の従業員の研修や能力開発を行う場合、従業員の受講に対するモチベーションの低さが問題になる場合があります。折角、時間と労力と経費をかけて、会社が善意で実施する人材育成策が功を奏しない現実を前に、「諸外国の企業では、日本企業のように社員の育成には力を入れないものだ」「転職が多い労働市場で、社員のスキルを高めても転職されたら元も子もない」という、短絡的な結論を急ぐ傾向があります。しかし、世界の有力企業に共通する経営命題は、社員の競争優位性を高めることです。社員の人材育成と優秀な社員を惹きつけること(retention)に成功している企業に共通していることは、例えばFortuneのWorld’s Most Admired Companiesに代表されるように、社員やその家族にとって「その企業に留まってキャリアを積み重ねるだけの社会的価値と魅力がある」という点です。その意味でも、企業の「市場好感度」や、社員にとっての企業の魅力度を高めることは、「その企業で育成され、プロとして成長したい」という社員の願望を高めることに直結すると考えられます。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE
1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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