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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心 日本国内の日常業務から培うグローバルな仕事力

2015.05.18

【グローバル人事管理の眼と心(4)】「風格ある」ホスト国の企業市民

定森 幸生

人間について人格や「風格」が取り沙汰されるように、企業についても「風格」が話題になることがあります。人間の風格と同様に、企業の風格は一朝一夕に生まれるものではなく、相当程度の歳月を重ねた企業活動を通じて培われ、ホスト国のさまざまなステークホルダーの心に徐々に、しかし確実に浸透していくものです。それは、その企業の規模の大小で評価されるものではなく、企業固有の得意分野で地に足の着いた(ホスト国社会に根付いた)地道で実質的な活動を通じて、ホスト国社会への貢献を積み重ねることによって醸成されるものです。ホスト国市場に少しでも早く認知してもらおうと、目立つ形容詞や副詞に頼った抽象的なスローガンや美辞麗句を並べた経営理念を掲げても、それ自体が人々の心を動かしたり、「尊敬の念」や「好感度」を生み出す訳でありません。

企業活動の好感度や信頼度を高めるためには、必然的に時間がかかります。ホスト国の多種多様なステークホルダーのニーズに応える経営側の長期的なコミットメントに基づいて、ホスト国市場の優れた人材を日々の企業活動の中核メンバーと位置づけ、彼らと日本からの派遣社員が「助け合い」「競い合い」ながら、ホスト国市場の共感を得られるようなオペレーションを軌道に乗せるまでには、かなりの持久力が必要です。それだけの努力を重ねてまで本業でホスト国社会の利益に貢献しようとする情熱とパワーこそが、ホスト国の企業市民(corporate citizen)としての「好感度」と、ステークホルダーからの「尊敬の念」の源泉になるのです。したがって、短期的な業績目標の未達成を理由に、直ちに「撤退」を焦るような腰の引けた事業運営には慎重であるべきでしょう。また、目標未達成の原因をすべてホスト国人材の理解不足や能力不足のせいにして、ホスト国人材を「使い捨て」にするかのような印象を与える人事施策を極力避けることも大切です。

人事管理の重要な施策である業績評価についても、資本の論理を盾に、経営の主導権は日本本社にあるからと言って、管理職として派遣された日本人社員がホスト国社員を「査定してやる」という上から目線で、彼らが本社の方針や仕事のやり方に精通していないこと、全社共通の業務知識の不足などのネガティヴな点ばかりを指摘することは、ホスト国の「風格ある」企業市民とは正反対のベクトルになります。第1回で触れたとおり、ホスト国人材について、漠然とした異文化特性などの固定観念を払拭し、虚心坦懐に一人ひとりの社員との「二人称」での濃密なコミュニケーションを通じて、彼らの優れた能力・識見、高い目標意識・向上心、目標達成への強い情熱などのポジティヴな点を積極的に見出して感謝と敬意の気持ちを表らし、日本本社からの派遣社員に足りないもので彼らから学べるものがあれば謙虚に学ぼうとする姿勢こそが、「企業の風格」をホスト国社会に強く印象づけるのです。「有為なホスト国人材を積極的に発掘し、長期的かつ戦略的に活用・登用する」ことを人材マネジメントに関する経営の基本理念に据えることが、ホスト国の基幹要員のモチベーションを高めると同時に、「風格ある」企業市民として市場の心を掴む正攻法なのです。

このような経営理念を実際の仕事の場で体現するためには、ホスト国社員が日本人派遣社員と「イコール・フッティング」で会社の経営方針や事業戦略を理解し、個々の役割は異なっていても、各人の仕事に対する使命感と相互に「助け合い」「競い合う」一体感とを醸成できる環境整備が必須条件となります。海外事業の拠点は日本本社から離れているうえに、限られた人数の本社派遣の幹部社員が現地の経営・管理業務を統括することが殆どです。したがって、海外拠点における事業戦略が、日本本社のグローバルな経営方針や事業戦略の中でどのような位置づけになっているのかを、ホスト国社員が日本本社からの派遣社員と同じ座標軸で正しく認識することは、構造的に困難な環境に置かれています。この構造的な情報不足による経営方針や事業戦略の「認識格差」を是正する努力が、ホスト国社員の実力をフル活用するうえで不可欠であるだけでなく、海外事業の大きな成功要因にもなるのです。

現実問題として、ホスト国拠点は、物理的・距離的制約はもちろん、日本本社との法人格の違いもあって、日本本社のコーポレート機能が直接的には及ばないため、どうしても「ホスト国の業務管理は現地のライン任せ」という原則論に頼って、ホスト国の人事管理を含む業務管理全般の実態に対する日本本社の関心が希薄になる傾向があります。しかし、日本本社のグローバルな事業戦略の背景にある経営理念や方針を、「海外拠点全体の事業戦略や人材活用ビジョン」に反映させ、それをホスト国社員にも具体的な日常業務のレベルで実感させる工夫と地道な努力を怠ると、優秀なホスト国人材は寄り付かなくなります。なぜなら、外資系(日本)企業で働く人たちにとっては、「企業の風格やアイデンティティ」や「事業戦略や人材活用の長期ビジョン」が、本国の社員とは比較にならないほど、その企業の中での自分たちの将来を占うための必要不可欠な手掛かりになるからです。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE
1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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