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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2020.07.13

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(76) 『2020年の総選挙は予定通り実施』

宍戸 徳雄

民族衣装を着てビルマの竪琴を弾く女性

 ミャンマー選挙委員会は、コロナ禍の世界的なパンデミックが収まらない中、選挙準備が大幅に遅れており延期が懸念されていたが、当初の予定通り、2020年11月に、総選挙を実施すると発表。5年前の総選挙では、アウンサンスーチー国家顧問率いるNLD政権が、旧軍事政権の流れを組むUSDPから政権交代を果たした歴史的な総選挙となったが、その後5年に亘るNLD新政権の政権運営への評価が下されることになる。

 NLD政権は、民主化政党としての大胆な改革が期待されていたが、国民の期待とは裏腹に、国軍との共存をベースに慎重に政権運営を進めてきた。特に、国際社会から猛烈な非難を浴び続けた西ラカイン州の民族問題(ロヒンギャ問題)では、人権侵害と暴力行為を否定しながらも、ミャンマー国として、この民族問題へ臨むスタンスを頑なに変えず国軍擁護の姿勢を貫くことで、国民の大多数を締める仏教徒への配慮を重視した。アウンサンスーチー国家顧問は、政権交代後、民族和解に向けて21世紀パンロン会議を招集して、多民族国家としての和平の実現に動き出したが、あまり具体的な成果は生まれていない。現在はコロナ禍の中、紛争地域における民族間衝突は、一時的に停戦状態となっている。

 そして、新政権が政権の大目標として掲げていた憲法改正については、実現への目処は全く付いていない。以前このコラムでも解説しましたが、憲法改正のための審議(具体的な憲法条文の改正案)など、議会における動きを一部仕掛けたこともあったが、議会における軍人票と野党票の反対で、一歩前進どころか一歩後退という状況に陥ってしまった。憲法改正への国軍議員のハードルは、予想通りの高さであった。
経済分野においては、ミャンマーチャット安によるインフレが生じており、国民生活をじわりじわりと圧迫している。政権交代前には、ミャンマーチャットは、対ドルに対して増価傾向であったが、NLD新政権後には、下降トレンドは変わっていない。ミャンマー投資委員会による投資許可件数自体は、計画値こそ下回っているが、西ラカイン州の民族問題があって国際社会からの投資回避の空気感が一時的に生じたものの、引き続き件数、投資額とも堅調には推移している。日本からの投資についても、この4年間において、大きく低迷したという状況にはない。

 NLDは、前回総選挙において、単独過半数は取れなかったものの、今回の総選挙で、現状議席を守れるかが一つのポイントになるだろう。当然NLDは単独過半数を目指して選挙運動をするだろうが、現状の国内世論の情勢を見ると、前回のような簡単な選挙にはならないだろう。ミャンマーは小選挙区制であるがゆえの得票率と連動しない議席数の大きな歪みを生じさせることもある。あまり報道はされていないが、前回選挙においても、USDPは、議席数では壊滅的な敗北という結果を生じさせたが、地域によっては、そこそこ健闘した得票率であった。今回の選挙の動向を見極める上で鍵になるのは、やはり少数民族政党と第3勢力政党である人民党であろう。USDPが少数民族政党と共闘し、少数民族政党が地方で躍進した場合、NLDの全体の獲得議席数によっては、人民党との連立政権樹立というシナリオも現実味を帯びてくるだろう。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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