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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2019.04.22

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(62) 『中国が主導して開発を進めるSEZ・深海港開発の今 その2』

宍戸 徳雄

港湾開発の権益は、自国の安全保障上の観点からも極めて重要である

 前回のコラムで分析したように、ミャンマー政府は、中国と一緒に進めていたミャンマー北西部チャオピューにおける大型のSEZ・深海港開発の縮小を目指し、当初の合意内容を変更する交渉を中国側と行っている。今回のコラムでは、ミャンマー政府がなぜ、事業の縮小に大きく舵を切ることになったのかその背景を分析してみたいと思います。

 中国としては、チャオピューにおける開発支援を、習近平政権が進めている「一帯一路」政策の中でも重要なプロジェクトとして位置付けていました。海洋地政学的にも重要な要衝であるマラッカ海峡を通過せずに、原油を中国本土にパイプラインで運ぶことができるルートであり、また中国からの製品輸出についても、チャオピューの港から、インド、アフリカ、中東方面への輸出が可能になるからだ。当初合意していたのは事業規模で73億ドル。その規模を5分の1程度にまで、事業規模の縮小を目指している。

 ミャンマー政府を事業縮小に傾かせた理由は、一番は債務問題への懸念であろう。
ミャンマー政府高官もメディアの取材の中でコメントしているが、当該プロジェクトで大きな債務を負うことは、事業的な収益性の目論見が外れた場合に、深刻な債務の返済問題となる。その結果、中国側から権益の放棄を強制されるリスクがあることを懸念してのことだろう。

 かつて、スリランカは、中国政府の支援を受ける形で、大型の港湾開発を進めていたが、当初の計画で想定していたほどの収益事業化に失敗し、結果、大きな債務を負ってしまった。そのことで後日、スリランカ政府は、港湾における権益を債務と引き換えに放棄して中国側に譲渡することを余儀なくされたという経緯がある。地政学的にも、外国に自国の港湾権益が押さえられるという事態は、安全保障上の脅威であり、このような事態に陥ることを避けるためにも、ミャンマー政府としては、まずは小さい事業規模からスタートして、順次、規模の拡張を目指していくというステップを踏む形へ事業化スキームを変更する意図が明確である。

 隣国のラオスでも大型の発電事業において、中国との債務問題を抱える事態となっているし、マレーシアでもマハティール政権が復活してから、鉄道事業などを含む中国主導のインフラ系の開発プロジェクトが複数中止となっている。
 中国としては、「一帯一路」政策の中でも、ミャンマー北西部のチャオピューの開発とマレーシアの鉄道事業は、極めて重要な位置付けであった。それが、双方、縮小ないし頓挫するということは、大きな目論見違いであろう。

 ミャンマー政府としては、長期間にわたる粘り強い交渉過程で、事業規模の縮小と権益割合の見直しを勝ち取る形に落ち着きそうだが、中国としても、事業規模が大幅に縮小するとは言え、当該プロジェクトが中止ではなく、一歩前へ進むことは、まずは歓迎すべきこととして、今後もしたたかにプロジェクトを進めていくスタンスである。

 中国の「一帯一路」政策は、東アジアからアフリカまで、広範囲にわたり中国の開発マネーを媒介にして影響力を増しつつあったが、スリランカの港湾権益放棄問題を発火点に、今回のミャンマーのチャオピュー開発の事業縮小やマレーシアの鉄道事業の中止によって、その勢いが削がれ、逆に中国の開発マネーに安易に依存することへの懸念が広がるきっかけとなっている。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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