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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2020.04.06

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(73) 『ミャンマー連邦議会、軍人議員によって憲法改正案否決』

宍戸 徳雄

憲法改正案を否決した連邦議会

 ミャンマー連邦議会は、アウンサンスーチー国家顧問率いるNLDが悲願としてきた憲法改正案の採決を、2020年3月10日より開始、約10日間に亘って審議・採決を行った。

 今回の改正案では、文言修正など簡易なものから、NLDが悲願としている連邦議会における軍人議員の固定席である25%(4分の1)の比率を段階的に引き下げるというメインの改正内容まで含め、135項目におよぶ改正案を採決した。

 採決の結果は、135項目の内、132項目が否決。文言修正や表現修正にとどまる改正案3項目のみが可決された。

 このコラムでも何度か解説したことがあるが、前提としてミャンマーの現憲法では、憲法改正のためには、連邦議会の4分の3以上の賛成が必要である。つまり、この憲法改正のための決議要件の一番の障害となっているのが、今回の改正案のメインの対象ともなった軍人議員の固定席問題(固定席4分の1)である。今回の採決でも、軍人議員の大多数が反対して、結果として否決に至っている。

 この採決の結果は、あらかたの予想の通りで、従来より国際社会から指摘を受けているミャンマー連邦議会の構造的な問題そのものを反映した結果そのものである。

 NLDとしては、否決されることは想定しながらも、本年末に行われる総選挙に向けたアピールの一環の意味もあっただろう。憲法改正は、5年前の総選挙において、政権交代を実現した際の政権公約でもあったため、次期選挙までに、改正への具体的アクションを示す必要があったと言える。

 今回の改正案の中には、軍人の固定席の問題だけでなく、非常事態宣言下における国軍司令官への統治権限の移譲条項の修正(権限縮小)などについても、改正対象として審議されたが、案の定、軍人議員によって否決された。

 結論的に言えば、軍人の権限縮小となる内容を含む改正案については、現状4分の1の軍人が反対することは明らかである。軍人議員の一部を切り崩す事前工作をしてから改正案を議会に提出しない限り、憲法改正が実現できないというこの構造的な問題は解決できない。NLDないしスーチー政権としては、軍人議員の切り崩しのためには、軍との信頼関係の再構築という大命題を掲げて努力はしているものの、それによって軍内部の結束を瓦解させ、投票行動に影響を与えるほどには至っていない。政権交代後、アウンサンスーチー国家顧問とミンアウンライン国軍司令官の二人の個人的な関係は、民政移管後のテインセイン政権時代よりは、雪解けしている。しかし、多民族国家のミャンマーにおいて、国軍が、議会を含む統治機構において一定の役割を担うという存在意義についての軍の自覚は全く変わっていない。この構造的な問題を解決するには、引き続き長い時間がかかりそうだ。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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