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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2017.10.10

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(43) 『西ラカイン州の難民問題をミャンマー側から見る』

宍戸 徳雄

複雑な歴史的な背景を抱えるミャンマー

 現在報道されている西ラカイン州で起こっている難民問題について、ミャンマー国内においてミャンマー人がどのように捉えているのか。ミャンマー以外の世界で一般的に報道されている内容とは、大きく視点が異なっていることに注意をしなければならない。

 世界が報じているロヒンギャ問題。そもそも、ミャンマー国内では、ロヒンギャと名乗る人々のことを、ロヒンギャとは呼ばない。彼らのことを、ミャンマー人は、ベンガル族(ベンガル人)と呼ぶ。ロヒンギャについては、歴史的に諸説あって、確定した史実がないということが、今回の問題を複雑にしている背景となっている。

 かつてミャンマーは、王朝時代に、ロビンギャ族を認めた時代もあったようだが、仏教徒マジョリティのビルマ人国家として独立後は、彼らに市民権を与えていない。その状態が現在まで続いているという状況だ。

 この問題を引き起こす根本的な原因を生じさせたのは、英国統治時代の政策にある。英国統治時代から太平洋戦争を経てビルマの独立に至る歴史的な流れの中で、この問題は複雑化したといえる。英国統治時代、イギリス政府は、統治下にある植民地の経済政策として、ミャンマーとインド、バングラデシュなどとの交易・商業を積極的に推奨する政策をとっていた。 相互の商業的な繋がりが広がる中、人的交流も深まり、バングラディッシュから来たベンガル人の多くがミャンマーの西北部に定住するきっかけを作った。これを英国植民地政府は、事実上認めていた。

 太平洋戦争勃発後、ビルマ独立軍とそれを指導し協働して英国と戦った日本軍は、イギリス軍の傭兵となったミャンマーに居住するインド、バングラデシュ系の入植ムスリム人と、ミャンマー国境付近で激突。この時、そのほとんどが仏教徒であるビルマ族と、ベンガル人などのムスリム傭兵との間に、激しい血を洗う戦いの傷あとを残した。戦後、ビルマがイギリスから独立後、戦時中の激しい戦いの記憶も残り、ビルマ人によるムスリム系ベンガル人への差別が徹底されて行われてきた。多くのミャンマー人の感情の底にはかつての傷あとが残っているのだ。

 軍事政権時代は、軍の強い統治により、仏教徒とムスリムの対立による治安の不安定化は顕在化しなかったが、現在、2016年総選挙で圧勝したとは言え、政治基盤の脆弱な民主政権において、この歴史的な問題が再発し、うまくコントロールができていない状況に直面している。ミャンマー側からすれば、この問題は、もともと宗教的文化的な背景が全く異なるバングラディッシュから来たベンガル人に対して、ミャンマーでの居住が安易に許容されたイギリス統治時代の負の遺産なのだ。近年ミャンマーにおいてもIS台頭などの懸念が高まっており、仏教徒マジョリティのミャンマーで、西ラカイン州に居住するムスリムのベンガル人を容易には受け入れられないという背景は理解できる。もちろん、相互の非人道的な戦闘行為などは非難されるべきであるが、歴史的な背景を踏まえず、一方的にミャンマー政府の対応を非難するだけでは、この問題は解決しない。
 歴史的な背景を一番よく理解しているはずのイギリス政府は、沈黙ではなく解決へのリーダーシップをとるべきであろうし、日本政府もこの問題を解決に導くことが期待されよう。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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