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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2018.11.19

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(57) 『補欠選挙の結果が示した政権への不満』

宍戸 徳雄

生活向上の実感はまだ感じられない、のどかな風景が残る農村部

 11月3日、ミャンマーで、連邦議会の補欠選挙が実施された。この選挙は、2020年の次回の総選挙を展望する上で、重要な位置づけとなる選挙となった。

 2015年の総選挙を経て、NLD政権が発足。今回の補欠選挙の結果は、政権交代後の約3年間にわたるスーチー政権の政権運営に対する一つの審判とも言える結果となった。

 今回、争われた議席は、全部で13議席(連邦議会:下院4議席、上院1議席、地方議会8議席)。このうち、政権与党であるNLDは、上院で1議席、地方議会で3議席を失い、改選前より4議席を減少させた。
 他方、議席を増やしたのは、前与党であるUSDPだ。USDPは、上院で1議席、地方議会で2議席を獲得、合計で改選前よりも3議席増した。

 2015年の総選挙では、民政移管を主導してきたとは言え旧軍事政権の流れを汲むUSDPに対して国民がNOと声を上げ、国民の期待を一身に背負って圧勝したNLD。その後、NLD政権が優先的な政策課題として取り組んできた経済成長や少数民族との和解交渉について、政権の舵取りとその成果に対して、有権者から不満の評価が顕出したのが、今回の補欠選挙の結果と評価できるだろう。

 この選挙結果によっても、引き続きNLDの議会多数の構成に変更はなく、当面の政権運営に支障をきたすことはない。しかし、この選挙結果のインパクトは小さくなく、国民の間においても、一定の数の有権者が実際に現政権への不満を投票行動において示したことに、困惑の声が広がっている。

 政権交代後の3年間、特に、西ラカイン州の民族問題におけるNLD政権の舵取りに、国際社会からの非難が集中。難民帰還の手続きも遅々として進んでいない。この問題に対しては、国民の間では、政権が直面する最大の難題であり、その解決は簡単ではないとの同情の声も多いが、やはり同問題への対処を間違えば、国際社会から再び孤立し、経済制裁などが復活し経済面への影響を懸念する国民も多い。
 経済成長分野においても、先般発表された国民生活白書における分析と国民が実感している肌感覚にも乖離がある。白書では、2016年以降の国民生活の発展についての分析の中で、政権交代後の2016年、2017年の2年間での生活向上が特に顕著であったと結論付けているが、その結論はあくまで都市部だけで合致する話で、農村部を中心とした都市部以外では実際に肌感覚として感じられるものではないだろう。

 2020年に控えた次回の総選挙の前哨戦ともなった、今回の補欠選挙。
 現政権への不満が有権者から示されたことにより、現政権は、総選挙までの残りの政権運営で政策の一部修正と成果へのスピードが求められるであろう。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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