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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2019.01.07

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(59) 『日本国大使が経済制裁に反対と発言』

宍戸 徳雄

2019年はスーチー政権にとって正念場の年となるだろう

皆様、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 去る2018年12月21日、ミンアウンライン国軍司令官が、ミャンマー北部における少数民族武力勢力との軍事行動を、一定期間(2018年12月21日~2019年4月末日まで)全面停止することを発表したこともあり、ミャンマーは、2019年の新年を平穏に迎えた。

 アウンサンスー・チー国家顧問、ウィミン大統領は、国民向けにそれぞれ年始の所感を発表したが、政権交代から3年を経た現在までに、解決の方向性が見えない西ラカイン州の民族問題に対する国民の不安を打ち消す程の強いメッセージはなかった。当初昨年12月に開始を予定していたバングラディッシュからの難民の帰還手続きも遅々として進まず、ついには年を越してしまった。

 今ミャンマー国民の多くは、アウンサンスー・チーNLD政権が、西ラカイン州の民族問題への対処の仕方を間違えることで、ミャンマーが再び、欧米諸国からの経済制裁を受け、国際社会から孤立することへの不安を感じている。前政権による民政移管、そして2015年の総選挙を経て、民主国家建設の道を着実に歩んできたかに見えるミャンマー。 特に、経済面では、外国からの投資を誘致し、産業育成と経済成長そして雇用創出と、国民生活の厚生を向上させることを目指してきた。その途に就いたばかりのミャンマーが、再び欧米諸国から経済制裁を受けることによる経済面での打撃は、国民生活への影響が相当程度に大きいものとして、国民の間で不安の空気感となって広がっている。

 そのような中、在ミャンマー日本国大使である丸山大使の某セミナーにおける発言がニュースとなって報じられた。
 地元メディアの報道によれば、同大使は、EUがミャンマーに対する特恵関税の恩典を取り消す形で経済制裁の復活を検討していることについて、「経済制裁を行って西ラカイン州の民族問題が解決するのであれば、日本政府も同様の対応をするが、経済制裁では同問題は解決しないし、同地域の人民を苦しめるだけだ」という趣旨のことを発言した。また「日本政府としては、国民が選択した現政権を支えていく」とも述べた。

 これらの大使の発言は、これまでの日本政府のミャンマーに対する支援スタンスを如実に表している。昨年11月の国連総会人権委員会で採決されたミャンマー対する西ラカイン州民族問題に対する非難決議では、日本は、欧米が取る強硬スタンスとは異なる独自のスタンで採決を棄権した。日本はこれまでも数回にわたり、同様の非難決議に対しては棄権のスタンスを貫いてきている。
 以前のコラムでも何度かコメントしたことがあるが、日本政府のスタンスとしては、スーチー政権が西ラカイン州の民族問題でかじ取りを誤り、国民の信頼を棄損し、国内の支持基盤を失うことを懸念している。スーチー政権の政治基盤が不安定となれば、それによって軍部が再び台頭したり、その軍部へ裏側から影響力を行使しようと中国のプレゼンスが顕在化する恐れがある。それでは、かつてのミャンマー軍事政権時代の再来となってしまい、ここ数年にわたる民主国家の建設のための国際社会からの様々な支援の努力が水の泡となってしまう。今、欧米が復活させようと検討しているミャンマーに対する経済制裁は、国民生活への影響も大きく、かつ直接的であり、日本政府が懸念している事態を引き起こす引き金になりかねない。

 今回の大使の発言は、地元メディアでも大きく取り上げられ、ミャンマー国民の日本政府のスタンスに対する信頼感と安堵感を生み出している。丸山大使とアウンサンスー・チー国家顧問は、数十年に亘る旧知の関係で、信頼関係も盤石だと言われている。日本政府が独自のスタンスを貫くことの実効性がどこまであるかは未知数であるものの、国際社会からのミャンマーの孤立を防ぐ防衛線として、一定程度の効果はあるだろう。
 2019年、まずは難民の帰還手続きが、一歩前に進むことが何よりも期待される。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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