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COLUMN コラム

激動するミャンマー

2019.05.20

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(63) 『ロイター通信記者、大統領恩赦により512日ぶりに釈放』

宍戸 徳雄

釈放された記者2人

 2019年5月7日、512日ぶりに大統領の恩赦によって、ヤンゴンのインセイン刑務所から、ロイター通信の記者2名が釈放された。国際社会は一斉にこのニュースを報道、ミャンマーがこのような形で約2年あまり国際社会からの非難を浴びせられ続けてきたこのロイター通信記者事件を、事態収束の方向に舵を切って結論を出したことは、国際社会も歓迎した。

 まずこの2年、ミャンマーが国際社会から非難を受け続けたロイター通信記者事件とはどのようなものだったかを振り返りたい。

 2017年12月、ロイター通信のミャンマー人記者2人が、治安部隊の西ラカイン州のロヒンギャ虐殺事件を取材中、ミャンマー当局に逮捕され拘禁された。その後の裁判において、裁判所は国家機密法違反で禁固7年という実刑判決を下した。最高裁判所は、2019年4月、弁護人からの上告を棄却して刑が確定、2人は収監されていた。

 国際社会は、このミャンマーの司法判断に対して、一斉に「ミャンマーの民主化の後退だ」「ミャンマーにおける表現の自由や報道の自由の問題は深刻」「ミャンマーの司法は独立性がない」などと非難声明を出した。

 裁判では、事件に関与したとされる警察官の1人が「わなだった」と証言するなど、当局によって予め仕組まれた言論弾圧の疑いも顕出されたが、裁判所は当局側の主張にのみ沿った判断をした。証言に立った警察官によれば、両記者は、警察官から重要な書類を渡すと言われて呼び止められ、その書類を受け取った直後に、別の警察官から呼び止められて、国家機密に関する資料を所持しているとして、逮捕されたものであった。この証言をした警察官は、その後消息不明となっている。
 そもそも、このロイター通信社記者が取材で暴いていたとされる内容は、2017年9月2日にラカイン州インディン村で起こった事件。2人のロヒンギャが仏教徒の村人によって惨殺され、他に8人のロヒンギャがミャンマー国軍に銃殺された。それらの死体は事前に準備されていた穴に投棄され、そのロヒンギャの家は燃やされた。記者は、この事件に関連した政府の関係文書や、現地の仏教徒村民、国軍治安部隊などへの取材を通じて、政府、治安部隊、仏教徒の暴徒らが、ロヒンギャ人に対する迫害行為の隠ぺい工作において協力関係にあることを明らかにしたとされている。

 国際社会からの非難に対し、スーチー国家顧問は、ロヒンギャ問題を取材したロイター通信社記者2人に対する実刑判決は表現の自由の弾圧に当たらないとの考えを、メディアや外遊先で表明。記者への実刑判決は表現の自由とは関係なく、国家機密法に違反する行為をしたためであるとの見解を繰り返し表明し、2人への禁錮7年の実刑判決の正当性を強調するばかりであった。

 今回512日ぶりに2記者を大統領恩赦で釈放という形で事態を収拾させる結論に動いたミャンマー。本事件は、国際社会からの注目を大きく集めた事件であったために、今回の釈放という結果は、大いに歓迎されるべきものであるが、ミャンマーでは引き続き、取材中の記者が逮捕されるケースが少なくない。
 今回のロイター通信記者事件の決着を契機に、今後もミャンマーが報道の自由や表現の自由をきちんと保障する方向で動くのか、引き続き注視していかなければならないだろう。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE

株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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